世界政治学会(International Political Science Association, IPSA)は、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)の後援のもと、世界的な政治学の発展を主たる目的として1949年に設立されました。IPSAの設立に向けた動きが始まった1948年当時、全国的な政治学会がすでに設立されていたのは、アメリカ、カナダ、フィンランド、インド、中国、日本など、ごく僅かな国だけでした。IPSA設立に向けた動きは、英仏などの欧州諸国やメキシコ、イスラエルなど多くの国における政治学会の設立につながりました。近年ではアフリカ諸国で政治学会設立の動きが進んでいます。IPSAは、現在に至るまで、世界各地における政治学の組織化を促す重要な要因であり続けています。
IPSAには3つの会員種別があります。(1)団体会員(Collective members):世界の各国や地域の政治学会が申請資格を有します。団体会員は、IPSAの評議員会(Council)に評議員を派遣することができ、執行役員会(Executive Committee, EC)の選出など、IPSAの組織運営・意思決定に関与します。(2)組織会員(Institutional members):世界各地の大学や図書館、研究所など、政治学分野の学術機関が申請資格を有します。組織会員は、IPSAの発行する学術誌の購読や、IPSAの広報システムの利用などを行うことができます。(3)個人会員(Individual members):政治学研究に従事する個人が申請資格を有します。個人会員は、IPSAの世界大会を始め、IPSAが主催する学術企画に参加することができます。個人会員の入会に際して審査などはなく、入会を希望し会費を支払えば誰でも会員になることができます。2023年11月現在、IPSAは、日本政治学会を含め合計59の団体会員(内訳は欧州地域30、北米3、ラテンアメリカ9、アジア9、アフリカ6、オセアニア2)、75の組織会員、4433人の個人会員を擁しており、多様性に富んだ世界的な国際学会として、政治学において重要な地位を占めています。
IPSAの日常的な組織運営は、会長および前会長・次期会長の3者による指導陣(トロイカ)と、評議員会で選出される執行役員会、およびその指揮の下で業務を行う事務局によって行われます。指導陣については、評議員会で次期会長の選出が行われ、次期会長がその後自動的に会長になり、任期満了後は前会長として引き続きIPSAの組織運営にあたることで、ノウハウの継承とリーダーシップの継続性が担保されています。2023年に行われた評議員会では、粕谷祐子会員が次期会長に選出され、2029年までの6年間にわたり指導陣のメンバーとしてIPSAを主導していくことが決まりました。
日本政治学会は、創設直後の1952年にIPSAに加盟し、IPSAにおける最も古参の加盟団体の一つとして、重要な役割を果たしてきました。今日までに武者小路公秀(第13代、1985-1988年)、田中愛治(第23代、2016-2018年)、粕谷祐子(第28代、2025-2027年)の3名のIPSA会長を輩出してきたこと、2006年のIPSA世界大会の開催国となったことが、その何よりの証左といえるでしょう。また、日本政治学会は財政面でもIPSAに大きく貢献しています。評議員会においては、日本政治学会は、アメリカ・カナダ・フランス・ドイツなどと並んで、加盟団体として最多の3名の評議員枠を割り当てられており(割り当て数は拠出金額に応じて決定されます)、執行役員会にも日本政治学会の代表が含まれる場合がほとんどで、IPSAの組織運営において重要な役割を果たしてきています。
IPSAが行う最も重要な活動は、世界大会(World Congress)の開催です。世界大会は、2012年まで3年に一度の開催でしたが、2012年以降は隔年開催となっています(ただし、新型コロナウィルス感染症の拡大のため、2020年にリスボンでの開催が予定されていた世界大会は延期され、翌年にオンライン開催となりました)。2023年のブエノスアイレス世界大会は対面とオンラインの併用での開催となり、98カ国から2995名が参加しました。日本政治学会は、IPSA世界大会における日本のプレゼンスの維持・拡大のため、海外政治学会派遣補助制度を通じて、IPSA世界大会に参加される日本政治学会会員の渡航費・交通費への補助を行っています。詳細については日本政治学会国際交流委員会からのご案内をご確認ください。
IPSAには50以上の研究会(Research Committees, RC)が設置されており、多様な方法論・研究テーマを扱っています。IPSAの個人会員は、RCに所属することにより、RCが企画する会議やシンポジウム等の開催情報を受け取り、参加することができます(入会時に所属するRCを選択しますが、入会後にIPSAウェブサイトのMy IPSAから変更申請を行うこともできます)。RCが主催する学術企画の一部はIPSAが資金援助しており、参加者は旅費の補助などの支援を受けることができる場合があります。
IPSAは、研究交流の場を提供するだけでなく、政治学教育の促進にも力を入れています。例年、トルコ、イタリア、メキシコ、カナダ、ブラジル、シンガポールなどでサマースクールを開催しており、世界各地から多くの参加者を集めています。また、近年はオンラインでの政治学教育も展開しており、IPSAMOOC(Massive Open Online Course)として多様な科目を英語・スペイン語で提供しています。
近年、世界的な格差拡大の問題に取り組むことが重要視される中で、グローバル・サウスにおける政治学の発展を支援することがIPSAの重要な任務の1つとなっています。その任務を果たすため、2009年にIPSAグローバル・サウス連帯基金(IPSA Global South Solidarity Fund)が創設され、IPSA世界大会に参加する発展途上国出身の会員への渡航費補助などの支援を行なっています。また、2022年の個人会員会費体系の見直しにより、個人会員の会費を世界銀行の所得水準別分類に連動させることが決まり、低所得国に分類される国の会員は会費が無料となるなど、発展途上国の会員の参加を積極的に促すための仕組みが随所で導入されています。
IPSAの概要や活動については、IPSAのウェブサイトに詳しく掲載されておりますので、ぜひご参照ください。http://ipsa.org