若手論文優秀賞について

日本政治学会若手優秀論文賞について

日本政治学会は、若手会員の研究活動を奨励し顕彰するとともに、学会を通じた研究活動をさらに活性化するため(日本政治学会若手優秀論文賞規程第1条)に、「日本政治学会若手論文優秀賞」を設けています。

最新の受賞作(2点)

  • 山口晃人「子どもの参政権の政治哲学的検討――智者政批判との関係から」(年報政治学2021年-II号掲載)

(選評)
 本論文は、子どもの参政権について、民主政論者による「智者政」への批判を踏まえながら検討を行ったものである。
 民主政論者は知識や能力に応じて意思決定への影響力を不平等に分配する智者政を、道具的価値や非道具的価値の観点から批判してきたが、著者は、こうした批判が能力に基づいて子どもに参政権を認めない場合にも当てはまることを説得的に論じている。また、先行研究の丹念なサーベイを通じて、子どもに参政権を認めたとしても能力に対する懸念はそれほど重大なものではないことを明らかにするとともに、大人だけの普通選挙を擁護するのであれば、新たな理論的な根拠が必要になるとして、民主政論者が子どもの普通参政権を支持することを提唱する。
 著者の議論は論理的かつ明快であり、年齢による参政権の制限という「常識」を揺るがすに足る結論を導くことに成功している。本論文は、民主政の根幹を成す参政権のあり方を問い直す挑戦的な研究として、高く評価できよう。

  • 金慧「デモクラシーと表現の自由――表現の規制は民主的正統性を掘り崩すのか」(年報政治学2022年-I号掲載)

(選評)
 本論文は、デモクラシーにおける表現の自由の役割について考察するために、R・ドゥオーキンに注目する。「市民による発言権の行使こそが法に正統性を付与する」という議論を展開したドゥオーキンの表現の自由擁護論を整理しつつ、その議論に内在する要素を再解釈することによって、ドゥオーキンの主張とは逆に、表現規制こそがデモクラシーを支える側面があることを示した。
 著者は、緻密な議論展開によって、ドゥオーキンが法の民主的正統性を支える要素として重視した個人の「倫理的独立の権利」は、ヘイトスピーチのような差別的言論を許容することによって、聞き手の側において損なわれうることを明らかにしている。本論文は、デモクラシーにおける表現の自由と表現規制という枢要な領域において、理論上の貢献を果たしたのみならず、実践上も重要な示唆を有する結論を導き出したものとして、高く評価できよう。

選考委員会(平田武(委員長)、三浦まり、堤英敬、杉之原真子、今井貴子)