若手論文優秀賞について

日本政治学会若手論文優秀賞について

日本政治学会は、若手会員の研究活動を奨励し顕彰するとともに、学会を通じた研究活動をさらに活性化するために、「日本政治学会若手論文優秀賞」を設けています(日本政治学会若手論文優秀賞規程第1条)。

最新の受賞作(2点)

  • 築山宏樹「有権者は相乗り候補が嫌いか?」

(選評)
 日本の知事・市町村長選挙においては、国政与野党から推薦を受ける相乗り候補が
頻出するが、有権者の目に相乗り候補者はどのような存在として映っているのか。本
論文は、コンジョイント実験を用いることで、この問いへの答えを導き出していく。
相乗り候補は、候補者に支持を与える各政党の中間的な位置にある候補者として有権
者に理解されているのであり、政党間のカルテルとして否定的に見られることはな
く、また、国政や団体と幅広い関係を有する者として支持されているのではないこと
が、分析の結果から明らかになる。
 日本の地方政治における大きな特徴でありながら、有権者側から捉えられることの
少なかった相乗りという現象に対して、丁寧に設計された実験手法を用いることで、
その内実を明らかにした点で本論文の意義は大きい。複数政党が執政長官選挙に関わ
る際の有権者、あるいは、マルチレベルで異なる執政制度や選挙制度に直面する有権
者が、候補者のあり方に対してどのような理解を有しているのかを考える際に、ここ
に示された有権者の姿は大きな示唆を与えるだろう。

  • 井元拓斗「国会における立法と政党政治」

(選評)
 議会における影響力を持つのは誰か。Who governs?という実証政治学における根源
的な問いの一つに対して、日本の国会を対象として、量的テキスト分析といった新し
い手法を用いることで回答を試みるのが、本論文である。2001年からの20年間にお
よぶ全内閣提出法案を対象とした分析は、国会における野党の影響力を浮かび上がら
せる。すなわち、野党の法案に対する態度は、法案の成否と、成立までにかかる時間
を左右しているのである。他方で、政権与党間においては、連立パートナーに対する
議場内での牽制・監視の行動は見られないことも明らかになる。
 本論文は、単語埋め込みといった自然言語処理に基づく感情分析を利用すること
で、政策領域ごとに、どのような態度を政党が有しているかを、長期間にわたって明
らかにすることに成功している。日本の国会研究やそこでの政党の役割について再考
を促す、そうした契機となりうる研究でもある。今後の議会研究の発展に対する研究
方法上の貢献が大きいのみならず、政治史をはじめとして、現代政治学以外の領域で
の応用可能性に開かれているところもまた高く評価できる。

若手論文優秀賞選考委員長 井柳美紀